『日本のいちばん長い日』は終戦に至るまでの政府中枢の動きを描いたノンフィクション小説をもとにした映画です。1967年に一度岡本喜八監督によって映画化され、2015年に再び原田眞人監督が映画化しました。
『日本のいちばん長い日』の基本情報
『日本のいちばん長い日』は終戦に至るまでの政府中枢の動き、玉音放送を妨害しようとした宮城事件を描いた、半藤一利氏のノンフィクション小説をもとにした映画です。1967年に一度岡本喜八監督によって映画化され、2015年に再び原田眞人監督が映画化しました。
原作は1965年に初版本が発行され、1995年に決定版が再版されています。2015年の映画は決定版を元に制作されました。
『日本のいちばん長い日』のあらすじ
太平洋戦争末期の日本、昭和天皇より内閣総理大臣に任命された鈴木貫太郎は、陸軍大臣に阿南惟幾を迎えいれます。ポツダム宣言を受諾するか否か。昭和天皇、鈴木、阿南は決断に苦悩します。政府中枢が揺れる中、広島、長崎へと原爆が投下され、ついに昭和天皇がポツダム宣言受諾の意向を示します。
しかし、強硬姿勢を崩さない陸軍では反発する将校がクーデターを画策。そして、8月15日、決起を決意します。
『日本のいちばん長い日』の登場人物
『日本のいちばん長い日』の主な登場人物は以下の通り(括弧内は演者)です。
鈴木貫太郎 (山﨑努) |
内閣総理大臣。戦争終結に向け、昭和天皇へ聖断を仰ぐ。 |
阿南惟幾 ( 役所広司) |
陸軍大臣。ポツダム宣言受諾に対し否定的な姿勢を示す。 |
昭和天皇 ( 本木雅弘) |
戦争終結への道筋を模索し、ポツダム宣言受諾の聖断を下す。 |
迫水久常 (堤真一) |
内閣書記官長。鈴木に帯同し、戦争終結へ向けて鈴木を支える。 |
畑中健二 (松坂桃李) |
陸軍省所属の陸軍少佐、軍務課員。ポツダム宣言受諾に反対し、クーデターを主導する。 |
『日本のいちばん長い日』感想・考察
『日本のいちばん長い日』の感想・考察を解説します。ネタバレを含むのでご注意ください。
豪華俳優陣の熱演
本作には山﨑努さん、役所広司さん、松坂桃李さんなど、主役級の俳優が勢揃いしており、名優たちの演技が光るのも魅力です。
戦争終結への思いを昭和天皇から託されて内閣総理大臣になった鈴木、陸軍の暴発を抑えながらギリギリまで耐える阿南、ポツダム宣言受諾の聖断を決意する昭和天皇。それぞれの苦悩を見事に演じています。
ポツダム宣言受諾を決意した昭和天皇が戦争終結と国民への思いを吐露するシーンでは、淡々と想いを述べるからこそ真に迫る気迫が感じられ、引き込まれます。昭和天皇を演じる本木雅弘さんのセリフの間や表情は必見です。
また、御前会議終了から阿南が自刃するまでの役所広司さんの演技も見逃せません。昭和天皇や鈴木総理と若い将校たちの間で板挟みになり、苦悩を抱えていた阿南。御前会議でポツダム宣言受諾が決定した後の、その苦悩から解放されたような凪いだ表情が印象的です。
陸軍の強硬姿勢と阿南の思惑
昭和天皇より内閣総理大臣に任命された鈴木貫太郎は、昭和天皇の意向も汲み、阿南惟幾を陸軍大臣へ任命することを軍部に申し出ます。阿南は軍内部での人望が厚く、任命を知り陸軍省勤務の将校が沸き立つシーンが描かれます。
一方で、元陸軍大臣東條英機は本土決戦の姿勢を示し、陸軍省の将校に対して徹底抗戦へ訓示をし、昭和天皇の和平の提案についても反発する姿勢を見せました。若い将校たちも徹底抗戦を切望します。
こうした陸軍内の状況を把握していた阿南は、陸軍大臣として閣僚会議などの場ではポツダム宣言受諾に対して反発する姿勢を見せます。
しかし阿南の真意は戦争終結に賛成でした。会議の様子が将校に伝わることを知っており、会議ではあえて強硬な姿勢を見せていたのです。
ポツダム宣言受諾の最終的な賛否を決める会議では、暴発寸前だった将校達を抑えるために、受諾反対が多数だと嘘を伝えます。その際の阿南の表情には、ギリギリまで陸軍の暴走を抑えようとする苦悩が滲みます。
御前会議と昭和天皇の「聖断」
本作では戦場の様子は描かれず、閣僚会議や御前会議などのシーンを中心に物語が展開されます。
戦地や空襲の様子は電報などによる知らせとして描かれ、直接的には描かれません。本土決戦に向けて調達した武器を並べたシーンでは、銃や手榴弾などのほかに、さすまたや槍、農具などが並び、日本にはまともな武器がない=戦う余力がないことが示されています。
閣僚会議や御前会議のシーンでは、戦争の終結へ向けた会議では陸海軍の大臣が衝突し、結論が出せない日々に総理の鈴木は苦悩を抱えていました。
閣僚たちの思惑が入り乱れ、いつまでも平行線の会議が続くなか、東京への空襲で御所も被害を受け、さらに原爆投下が行われます。
鈴木は天皇が政治的決定を行えば、天皇にも責任が生じてしまうことを懸念していました。しかし、会議が紛糾し時間ばかりが過ぎていく中、ついにポツダム宣言受諾の聖断を昭和天皇へ仰ぎます。
天皇に戦争責任が生じかねないながらも、閣僚たちだけではどうにもできない状況に対する鈴木の決断が、戦争終結へと大きく前進させることになるのです。
宮城事件
本作では一部の陸軍将校や近衛師団が戦争終結に反対し起こしたクーデター未遂「宮城事件」も描かれています。
ポツダム宣言受諾に関する連合国の回答文にあった「subject to」の解釈です。外務省では「制限の下に置かれる」と訳したのに対し陸軍は「隷属する」と解釈しました。
国体護持が守られず、天皇の尊厳を損なうと反発し、もともと戦争終結に反対だった陸軍内部では強い反発が起きます。そして、陸軍大臣を筆頭にクーデターを起こすか、陸軍大臣ごと内閣を倒そうとする過激派がうまれます。
このクーデターを主導したのが畑中少佐です。映画ではポツダム宣言受諾の聖断に対し、怒りをあらわにします。
阿南陸相や師団長などを説得するも失敗し、賛同する将校とともに玉音放送を阻止しようとします。しかし、録音盤の奪取や放送会館での檄文の放送ができず、クーデターは失敗。畑中少佐はともにクーデターを決行した椎崎中佐とともに自殺します。
これ以上の戦禍を避けるためにポツダム宣言受諾を決めた昭和天皇や閣僚たち。最後まで国体護持、そしてそのための徹底抗戦を諦められなかった将校たち。
どちらも「国を守る」という強い思いを持っていながら、なぜこれほどまでに異なる決断を下したのか。価値観、正義、信念が違えば、描く未来や理想の在り方は異なるということを克明に描き出しています。
『日本のいちばん長い日』の考察余談
クーデターを決行した畑中少佐は、実際には物静かな性格だったといわれています。67年の映画における血気盛んな描き方は実像とかけ離れているとして、彼を知る関係者から訂正を求める声が上がりました。
今作では純朴な好青年然とした姿も描かれています。映画冒頭の爽やかな印象からクーデター決行に至るまでの怒りや狂気が滲む姿を、松坂桃李さんが見事に演じています。
『日本のいちばん長い日』が見られる配信サービスは?
『日本のいちばん長い日』は以下の配信サービスで視聴できます。
サービス名 | 配信状況 | 料金(月額・税込) | 無料トライアル期間 |
Amazonプライムビデオ | 見放題配信 | 600円 | 30日間 |
U-NEXT | 見放題配信 | 2,189円 | 31日間 |
Hulu | 見放題配信 | 1,026円 | なし |
DMM TV | 見放題配信 | 790円〜 | なし |
楽天TV | レンタル配信 | 登録無料 | なし |
Lemino | レンタル配信 | 990円 | 31日間 |
AmazonプライムビデオやHuluなどでは見放題配信されています。楽天TVは無料で登録できますが、レンタル料金が2日間440円(税込)〜かかります。
Amazonプライムビデオでは、1967年版のレンタルまたは購入での視聴が可能です。2015年版と比べてみるのも面白いでしょう。
まとめ
本記事では2015年版『日本のいちばん長い日』を紹介しました。
日本がいかにして終戦へ向かったのか。淡々と描かれているからこそ当時の閣僚たちの苦悩や想いが感じられます。
終戦からもうすぐ80年。当時を知る人も少なくなり、テレビや映画などでは戦争を題材にした作品も少なくなっています。戦争について考えるきっかけとして、ぜひ視聴してみてください。